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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

郁次郎から自白の口書をとった上は、すぐに、江戸表へさし立てましょう」

「やっかいな下吟味がすんで、なんだか、肩の重荷が半分以上も下りた気がいたす。それではすぐに、用意を申しつけましょう」

その準備は早かった。

いつでもというように、部下の者は、七日も前から待ち構えていたので。

わずかな間に、げっそりと衰えた塙郁次郎は、やがて、軍鶏籠の人となった。警固は、二十人余りの捕手。

羅門塔十郎と東儀与力が先頭に立った。加山耀蔵は駕わきに付く。そして、江の島の渡舟から腰越街道の方へ渡ってゆくと、もう海辺も路傍も人で埋まって、

「指切りの郁次郎だ」

「江の島の巫女殺しだ」

と、たいへんな騒ぎである。

中には、

「憎い奴だ」

と、軍鶏籠を目がけて、石を抛りつける者がある。唾を吐いて、罵る者がある。

「ばか者ッ」

と、そんな時、加山耀蔵は思わず腹の底から呶鳴りつけた。――恩師の息子を縛げて警固してゆく彼の心には、人知れぬ悩みがあった。道中も、怏々として勝れない顔いろ。

その晩は、保土ヶ谷泊り。

神奈川の陣屋に着く予定だったが、ちょうど、国元へ帰る備前岡山侯が滞泊しているので、わざと、囚人駕を避けて、一つ手前の保土ヶ谷に泊ったのである。