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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

「ウーム、そ、それだよ」

と、老人は、あらい息を吐いて、

「わしは、敗北したよ。見事に、羅門塔十郎のために、言い負かされてしまったんじゃ」

「えっ、では、老先生の明智と熱とをもって、ご子息の冤罪を主張なされても、やはり、郁次郎殿は、罪人ときまったのでございますか」

「形のうえでは、わしが言い敗れた。真の罪人の出ぬうちは、伜の罪は拭われぬ。たれが仕組んだ仕事か、悪人ながら、よくもああまで巧みに、人に罪を着せたものじゃ」

「して、老先生には、獄中の郁次郎殿と、ご対面はなさらなかったのでございますか」

「会った……」

老人は、ほろりとして言う。

「会って来たよ。――見違えるばかりに窶れた伜の姿を、あの藪牢の中で見たとたんに、わしはいっぺんに、十年も年を老った気がした」

「その節、ご子息には、何と仰せられましたか」

「伜も伜だ、逆上しておる、あいつは、幼少の時から、気が小さい、それに、柔順だ。――だから、もう運命に負けきって、笛師殺しも、巫女殺しも、みな自分が犯したことに相違ないと、言うておる」

「えっ、それでは何ですか、あの、お父上たるあなたに向って、郁次郎殿は、そう言っておりますか」