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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
「似ているというのか」
「誰が見たって、別人とは思いませんぜ」
「いや、あれはまったく、べつな女だ。そのからくりも、化けの皮も、やがて近いうちに、江漢が曝いてみせる。――とにかくこの婦人の一命は、何ものより大切なのだ。どこか、無事な所へ移して、おまえ達で保護をしてくれい。そこに、心配があっては、この江漢も、思うさまに、働き難い」
「よろしゅうございます」
と、舟辰は、もちまえの侠気を出して、ひきうけた。
「きっと、あっしが、お嬢様をお守り申しておりますから、老先生には、そんなご心配なく、どうか存分に、腕をふるっておくんなさいまし」
「よし、それでわしも、晴々と、征悪の戦に立てる。今日から百日の期限の日まで、そちの家へ、顔を見せぬかも知れぬ。だが、江漢は仆れても仆れても、必ず起つ! 必ずどこかに生きている! では、花世の身を頼んだぞ、くれぐれも」
山門の外には、駕が待っていた。
老先生の体は、宙を飛ぶように、揺られていた。――その駕の中で、彼は、花世が細々と書いた「二つの問」の答えを、繰り返して、読み終った後。
「む!」
と、大きく、独りで頷いた。
眼をふさいで、腕を拱む。