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ろうごくのはなよめ
牢獄の花嫁
吉川 英治
「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页
「呼んでくださいな、分る人を。――この小さな荷物を一つ、京都へ送って貰いたいんですが」
と、女は、胸にかかえている小さな小箱を示して言った。
「――へ。ただ今」
お掛けください、という世辞も忘れて、小僧は、奥へとびこんで行った。と、すぐに、如才のない、中年の番頭が、
「どうも、お待たせいたしまして、とんだ失礼を。……さ、お敷き下さいませ。オイ、幸どん、まだ、お茶が出ておりませんよ」
手をたたいて、奥と客とへ、等分にしゃべりながら、座ぶとんをすすめる、茶を出す、世辞を撒く。
誰がふんでも、一人前の、商人気質である。――だが、それは巧妙に変装した老先生股肱の同心、加山耀蔵だった。
「ええと……お嬢様」
耀蔵は、もみ手をしながら、畏る畏るのぞき上げて、
「ただ今、承りますと、何ぞ、お荷物をお送りになるとか、為替のご用だとか、伺いましたが」
「はい、いつもの所へ」
と、女は、頑丈な二重箱を打ちつけた上に、渋紙と、麻縄をかけた小荷物を、そこへ出した。
「……送って戴きたいんですが」
「へい、畏りました。ええと、いつもの所と申しますと?」
「毎度、あちらから、金子を為替で送ってもらう……」