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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

乾坤堂の客

「しめた、お手もとに届いたな。――あれをご覧になったお答えは、灯でご合図を願いたいと書いておいたから、あの窓の灯が、消えればご不承知。左右にうごけば、こっちの計略を、ご承認くださることになるわけだが……」

と、峰の一角に隠れて、片唾をのんで見つめているのは、いま矢を放した波越八弥。

やがてしばらく――

高楼の窓の灯が、左右に、静かにうごいた。

「あっ、ご承諾だ。ありがたい」

それを見届けると、八弥は一散に、作兵衛小屋へ帰って来た。

重粥をすすり、久し振りに、藁の上で一睡した耀蔵は、だいぶ元気になって待ちかねていた。

「波越、遅かったじゃないか」

「一刻でも、貴公が体をやすめるように、わざと日暮れまでぶらついていたのだ。しかし欣んでくれ、矢文の願意は、お聞き届けになった」

「そうか。ここまで事を運んで帰れば、老先生もさだめしお欣びだろう。夜にまぎれて、早速立つとしよう」

作兵衛は、松明を持って、ふたりを叡山の近くまで送った。そして別れ際に、自分も、もうあの住み馴れた山にもおられなくなったと言って、老いの眼をうるませた。

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