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ろうごくのはなよめ

牢獄の花嫁

吉川 英治

「キング」大日本雄辯會講談社、1931(昭和6)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 162,213 字 · 325 页

青空文庫

恐怖と驚愕

庭垣も、式台も、至って質素な玄関である。ふたりは静かにそこに立って、

「たのむ」

と、奥へ言った。

恐怖と驚愕

静かに、ふすまの辷る音。

小間使である。手をついて、

「あの、どちらさまでござりましょうか」

「花世どのは、ご在宅かの」

と、東儀与力が代って、軽く、ふたりの姓名を告げる。

「お嬢様はただ今、よそにお出ましで、お留守でござりますが」

「ははあ、それではまた、白魚橋の水天宮へご日参ではござらぬか」

「ま。よくごぞんじで……」

「いつぞやも、その途中でお目にかかりました。では、ご主人の五百之進殿は」

「その旦那様は、ちと前から、お知行所の下総の方へお旅立ちで、まだお帰りがござりませぬ」

「やれやれ」

と、塔十郎の顔をふり顧って、眼で、何か語らいながら、

「ではお留守中をぶしつけながら、花世殿のお帰りまで、玄関脇のお部屋でも拝借して、お待ちうけしたいと思うが、どうであろう」

「さ、私には計らいかねますが……」

「用人はおらぬのか」

「至って、無人なおやしきでございますから」

「案じることはない。お目にかかればすぐわかることじゃ」

と、草履をぬいで、

「羅門氏、そうしようではないか」