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ごくちゅうへのてがみ
獄中への手紙
宮本 百合子
08 一九四一年(昭和十六年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 230,599 字 · 458 页
いつかアランが詩と散文について書いている点で、不備だったこと書きましたろう? 詩は真直に立っている(精神が)、散文は現象とともに走りまわっているものだ、ということで。アンドレ・モロアはこのアランの弟子ですって。アランのところでは辛うじて良識の域にとどまっているものの見かた(もう一歩で常識、保守に入りこむところを)が、お弟子ではちゃんと地辷りしていて、あの如き有様なのね。
そう云えば『誰がために鐘は鳴る』の下巻出ましたね、お買いになった? まだ? 送りましょうか? 机の横にはあの平たく低い方の本棚(あなたの)があって、そこには河出の世界文学叢書と、岸田の『美乃本体』だの小田の『魯迅伝』だの、ちょいとよみたいものも置いてあります。
文泉堂という本やがあってね、これは『古事類苑』だの何だのの月賦販売者ですが、いろいろの名士のところへまわって歩く、妙な中爺ですが、この男はいろんな人間を見ているものだから一種の哲学をもっていてね。伊藤永之介の書斎を見ましたが、寄贈本ばっかり並べています、あれじゃ先が見えて居りますハイ、と云っていました。こういう云いかたにはいやなものがあります、しかし本当のこともふくまれている。