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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

忽然と消えた駕籠

忽然と消えた駕籠

高貴の姫君に相違ないのに、駕籠の中の女のそういった声の、なんと荒んでいることぞ! そうしてそういった言葉つきの、なんとはしたなく下卑ていることぞ! たたずんで見ていた山県紋也は驚きと一緒にいわれぬ憎悪を胸に持たざるを得なかった。

「それにしてもこの女は何者なのであろう? 白痴でなければ狂人だ。何をいいかけているのだろう? 意味をなさない言葉ではないか……それにしてもこれはどうしたのだ? 胸を掻き乱す芳香は!」

物をいているのでもあろうか? 香料を身につけているのでもあろうか? 駕籠の中から形容に絶した、馨しい匂いが匂って来た。いやいやそうではなさそうであった。※(「火+(麈-鹿)」、第3水準1-87-40)物を※(「火+(麈-鹿)」、第3水準1-87-40)いているのでもなければ香料を身につけているのでもなくて、全く別の何物かから匂いは匂って来るようであった。では女の体臭であろうか? いやいやそうでもなさそうであった。もしも体臭であったならば、駕籠の扉をあけたその時から、匂いは匂って来なければならない。しかるに馨しいその匂いは、女が物をいい出した時から、忽然と匂い出して来たのである。