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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
建築用の空地のようである。一所に生白く光るものがあった。地面には水が溜っていて、月が接吻けているからであろう。紋也は少しく距離を置いて、家のようすを一渡り見た。黒い板塀がかかっていて、その上へ家の二階だけが、月明の空を押し分けて、黒々と輪郭をつけていた。雨戸が引かれているからでもあろうか、一筋の燈火さえ洩れていない。依然として屋内は静かである。
「こうなると俺は俺の耳を、疑わなければならないようだ。あれだけの人数がはいり込んだのだ。人声のしないはずがない。それだのに人声がしないばかりか、咳の声さえ聞こえない。……聾者になったのではあるまいかな?」
紋也は少しく莫迦らしくなった。で、家へ帰ろうとした。で、塀に添って露路のほうへ、二足三足歩き出した。だが、その次に起こったのが第二段の恐ろしい出来事であった。塀の内側から足の音がしたが、ややあって塀の一所へ、ポッカリと四角の穴があいた。切り戸が内側からあけられたのらしい。と、その切り戸から黒い物体が、無造作に塀の外へ転がし出されたが、またすぐに切り戸は閉ざされてしまった。
「はて、なんだろう?」と怪しみながら、紋也は物体へ近寄ったが「若い男の死骸だ!」