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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

と、そういう左内の心を、代官松は感じたらしい。てれたように顔をゆがめたがその顔を今度は紋也のほうへ向けると、

「これは山県の先生で、若様とご一緒でござりましたかな」

「さよう」紋也も冷淡であった。

「見られる通り二人一緒」――あえて代官松一人だけではなくて、あらゆる目明しというようなものを、日ごろから紋也は嫌っていた。もっとも世間の誰一人として、目明しを好きだというものはあるまい。が、紋也は身分においても、また抱いている志においても、またふるまっている行動においても、絶対に他人に知らせることのできない大きな秘密を持っていた。したがって、いっそうに紋也としては、目明しを嫌わねばならないのであった。代官松は江戸においても、名うての腕っこきの目明しであって、その上に紋也と同じように、神田の区域に住んでいた。で、紋也はずっと以前から、代官松のやり口については、注意と監視とを怠らなかった。しかるに決して思いなしばかりではなくて、たしかに相手の代官松のほうでも、紋也に何らかの疑いをかけて、探っているように思われた。

今その代官松に逢ったのである。冷淡にあつかったのは当然といえよう。