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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「雑魚だ雑魚だと馬鹿にしたが、どうしてどうして紋也という男は、雑魚でないばかりか大物だ。気象も武道も素晴らしい。……あやうく俺は切られるところさ。……おや」

とつぶやくと代官松は、小門のある家の扉へ、軽く片頬を押しあてた。「たしかこの家は空屋のはずだが、今夜は人の気勢がする」

――で、しばらく聞き澄ました。

「借り手がついてはいったのだろう。ちっとも不思議なことはないさ」

代官松は歩き出した。

「一軒、二軒、三軒、四軒……小門のある家からはじまって、同じ並びの小さい借家が、ここ数ヵ月の以前から、一度に空屋になったのは、なんとなく俺には腑に落ちないよ」

月はいつの間にか家の背後へまわったからでもあろう、片側道の佐久間町の家並みは、いちように間口を黒めていたが、その家並みに添いながら、一軒、二軒と代官松は、家を数えて歩いて行った。

と、ぴったり、そこに建っている家というのは女煙術師と山県紋也と話し合ったところの屋敷であった。

と、スルスルと近寄って、代官松は大門の扉へ、しっかりと片耳を押しあてた。

「俺の本当の目的は、この屋敷にあろうというものさ。……一ヵ月このかた探っているのだが、いまだにハッキリとはわからない」