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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
こういう知らせを受けたことぐらいが乏しい代官松の獲物であった。
「土塀を乗り越えて屋敷の庭へはいって、思い切ってようすをさぐってみようか」――こう代官松は思うこともあったが、どうにも決心がつかなかった。というのはなんとなく神々しく、また何となく恐ろしく、ここの屋敷が思われるからであった。
で、今夜も見には来たが、やはり土塀を乗り越して、屋敷の中へ忍び込む気には、どのように努めてもならなかった。
「チェッ」と代官松は舌打ちをしたが「こんな経験はこれまでにはなかった。いったいどうしたというのだろう? これまでの俺と来た日には、どんな剣呑な屋敷へだろうと、これと思い込んで目星をつけた以上は、きっと忍び込んで探ったものだが、この屋敷に限って忍び込むことができない。……ヤキがまわったというものかな? それとも何かあらたかな物が、屋敷の中に在すからかな?」
はがゆく思われてならないのであった。
「一ぷくすって考えよう」大門からそれて土塀の裾へ、腰をかがめ込んだ代官松は、腰の煙管を引き抜くと、ゆるゆる莨を詰め出したが、「チェッ」とまたもや舌打ちをした。
「いけないいけない燧石を忘れた」