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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
そうかと思うと、お長屋の土塀へ、お粂さんが楽書きをいたしましたのを、偉いなどといって同意したりします。――もっともこれはなんのことだか、お前さんにはわかりますまいがね。そうかと思うとお粂さんと一緒に、水戸様の石置き場の空屋敷などへ行って、人の心へ火をつけるお若いお侍さんの、お話を熱心に承って、手を拍ったりなどいたします。……間の抜けた顔はしておりますが、案外に私は気が利いていまして、わけても眼と耳が利いておりまして、人様の思惑ややり口が、よくわかるのでございますよ。たとえばお前さんが一月このかた、この屋敷の土塀の周囲を、グルグルおまわりなさることや、近所のお神さんや子供さんの口から、ここのお屋敷の内輪のようすを聞きただそうとしたことなども、ちゃんと知っておりますので。……で、私といたしましてはせっかくにお骨折りくださいますので、ここのお屋敷の内輪のようすを、お知らせしたいのでございますが、少し故障がありまして、それだけはお話しいたしかねます。で……」
とここまでいって来たが、金兵衛は首を一方へ傾げた、お粂の顔色は白かったので、背後には常磐木を背負っていても、また月光にそむいていても、夕顔の花のように浮き出して見えたが、金兵衛の顔はそうはいかなかった。