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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

ハッハッハッ。何をつまらない! つまらないことを申しましたなあ」ここでさらに嘉門はよろめいて、左内とお菊とが向かい合って、黙然とたたずんでいる真ん中のあたりをヒョロヒョロと縫って向こう側へ行ったが、そこには花をつけていない百日紅の木が立っていた。と、嘉門は振り返って、百日紅の幹へ背をもたせかけて、左内とお菊を見比べたが、「それに近来私のところへ、気味の悪いお武家様が再々参られて、このようなことを申しますので『美しい娘を囮にして、若殿様をたぶらかすのは、不届き至極ゆえ注意さっしゃい!』と。そうして私はそのお方様から承ったのでござりますよ。左近将監様の姫君様と、左内様とのご婚約のことを。……なんの私が娘を囮に、高いご身分のお武家様などを、手中に入れなどいたしますものか。ハッハッハッ、つまらないことを!」

二人の男女の間を通って、またもや嘉門は酔いの醒めない足で、藤棚のほうへ歩いて行ったが、それからさらに馬酔木の叢の、裾を向こうへグルリとまわって、姿をしばらく隠してしまった。が、再び藤棚の下へ、蹣跚とした姿を現わした。

「ひとつ率直に申し上げましょう」どうしたのか嘉門は左内を睨んだが、「あなた様の父上の北条美作を、私は嫌いなのでございますよ」