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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
顔を合わせた讐敵
「ほほう、これはどなたでござるな?」
「拙者は桃ノ井兵馬でござる」
顔を合わせた讐敵
心に大望を抱いている、山県紋也ではあったけれども、風雅の道は忘れなかった。狂言を好むところから、泉嘉門へ弟子入りをしたのは、この時から半年ほど以前のことで、北条左内と親しくなったのも、相弟子であるという関係からであった。妹の鈴江も濶達の気象で、かつは風雅を好んだので、兄と一緒に弟子入りをしたが、女同士のことであって泉嘉門の娘お菊と、すぐに親しい仲となった。
で、紋也も妹の鈴江も、嘉門の屋敷を訪ねることが、このごろでは無二の楽しみとなった。
今日は稽古日というところから兄妹が揃って来たのであった。
兄妹の来たことはよいとしても、なんの理由から桃ノ井兵馬は嘉門の家を訪ねて来たのであろうか?
兵馬も嘉門の弟子なのであろうか?
いやいや決してそうではなかった。嘉門の狂言の弟子でもないのに、この日ごろ兵馬は嘉門の屋敷を、しげしげとして訪ねるのであった。
何らかたくらみがなければならない。
とまれこうして紋也と兵馬とは、嘉門の屋敷の玄関の前で、ゆくりなく顔を合わせたのであった。