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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
というよりむしろこういったほうがよい。大弐と右門とは式部の思想を、受け継いで大事を企てたのであって、大弐と右門との背後には、竹内式部がいたのであると。とまれこうして竹内式部の宝暦尊王事件なるものも、大弐と右門の明和尊王事件も、幕府の手によって破壊されたが、表だって破壊をした者といえば、時の老中の筆頭であった松平左近将監武元であった。が、その将監の懐中刀として、縦横に策略を振るった者は梟雄北条美作であった。で、もし大弐や右門などに、遺児があったとしたならば、当然に将監と美作と、裏切り者の桃ノ井久馬とを、恨まないわけにはいかなかったろう、果然、大弐には遺児があった。紋也と鈴江と小次郎とである。
またもし裏切り者の桃ノ井久馬に、遺児があったとしたならば、大弐や右門の遺児に遺恨を持たざるを得なかったろう。果然久馬には遺児があった。ほかならぬ桃ノ井兵馬である。
今その紋也と兵馬とが、お狂言師の泉嘉門の玄関の前において互いに顔を合わせたのである。とうてい無事には済まされまい。
問答は無益と思ったのであろう。「まいるゾーッ」とばかりに声を掛けたが、桃ノ井兵馬は飛び込みざまに、天道流での乱軍刀だ、片手なぐりに切り込んだ。