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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「おッ」と叫ぶと柄を下げて、鍔を眼もとまで引きつけたが、さながら太刀を御幣かのように、左右へピューッと振り立てた。で、刀身が綯われるように、頭上で入れ違って綾を織って、そこに怪しい気味の悪い光り物が踊っているように見えた。がもし誰かが眼をそばめて、仔細に観察を下したならば、細い細い一本の銀の線が、兵馬の左の眼を狙って、流れ込んで行くのを見たことであろう。

が、その次に起こったことといえば、兵馬が抜き身をひっさげたままで、小門をくぐって一散に逃げて、その姿が庭から消えてしまった時に、牡丹桜の老木の幹の蔭から、五十本の針を吹き終えた鈴江が小走って来たことであった。

「うむ鈴江か、役に立てたな」

「はい、お兄様、どうやらこうやら」

紋也と鈴江とが向かい合ったときに、酔いを醒ました泉嘉門が、しっかりとした足どりで歩み寄った。

「あのお方なのでございますよ、左内様とお菊の仲を裂こうと、このごろしげしげとお越しになって、この私めを嚇しますのは」思案にあまったというように、こういうと嘉門は腕を組んだが、首をめぐらすと庭の奥を見た。その眼界に立っているのは、恐怖に怯えて眼をみはって、顫えているお菊の姿であった。