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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
燭台の灯がまたたいて、襖の引き手の円い金具が、そのつどしらじらと光って見える。で、部屋の中は静かであった。
と、サラサラと音がした。秋の夜風が出たのでもあろう。庭の木立ちが騒ぐのでもあろう。
と、コトコトと音がした、下女が台所で洗い物をしていて、器と器とをぶっつけたのでもあろう。しかし部屋の中は静かであった。
燈火に右の頬を明るく光らせて、キチンとすわっている小次郎の影が、左側の畳の上へ落ちている。と、その影法師を揺するようにして、小次郎は一膝一膝を進めたが、
「姉上そうではござりませぬか。私には不安でなりませぬ」――で、姉の鈴江を見た。
弟小次郎の平素着らしい、浅黄色の無地の袷の袖を、しなやかに縫っていた姉の鈴江は、うつむけていた額を軽く上げたが、
「ほんとに小次郎は弱気だねえ。そうも心配をするものではないよ。兄上には兄上の思惑があって、あそこへおいでになるのだからね」
――で顔をうつむけたが、しなやかに縫う手を進めて行く。布をくぐったり布に隠れたり、虫でもはって行くがように、針が銀色にチカチカと輝く。二人はしばらく黙り込んだ。
庭の草むらで露を吸いながら啼きしきっている虫でもあろう、虫の音が部屋まで届いて来た。