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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「どうやらこのごろ兄上のもとへ、京都の青地園子様から、いかにも思い余ったような、お気の毒なご書面がまいりましたようで。兄上から内情を承りました。そのご書面によりますと、園子様の兄上の青地清左衛門様は、徳大寺様の密使を受けまして、江戸へ密行をなされる途中、箱根の峠路で何者とも知れず、殺害なされてお逝くなりなされたそうで。お気の毒でお気の毒でなりませぬ。……私たち兄弟と同じように、園子様にはご両親がなくて、お一人のはずでござりますよ。それでぜひともこの土地へ参って、兄上とご一緒におなりになりたいような、お心持ちだとか承りました。これはまことにごもっとものことと、この小次郎には存ぜられます。おやさしいお美しい園子様と、兄上とは許婚でございますもの。で、私は兄上に向かって、すぐにも京都から園子様を、お呼びしてご一緒におなりなさいますようにと、おすすめしたのでございますよ。するとどうでしょう兄上には、『武家の堅苦しい娘などよりも、砕けた市井の女のほうが、わしの嗜好に一致する。水戸様石置き場の空屋敷に出入りをしている女どものほうが、私にはうってつけに恰好だよ』