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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

――などとこのようにおっしゃいまして、ご返辞さえも差し上げなかったようで。……で、私には思われました。兄上はお心が変られたのだと。大義という言葉をかこつけにして、その実は放蕩に溺れられたのだと。……よくないことでございます、よくないことでございます!」

園子という名がいわれ出した時から、鈴江は動揺を現わしはじめた。縫う手を止めて顔を上げたが、見れば眼の中に涙のようなものが、うっすらとして流れていた。

「実はね妾もお兄様から、園子様のご書面を見せられたのだよ。なんで妾が園子様へ、同情をしないことがありましょう。それこそ園子様というお方は、神様といおうか仏様といおうか、慈悲深くてご親切で犠牲的で、邪気というものの一点もない、お美しいお方ですものね。……でも妾はお兄様へ向かって、全くお前さんとは反対のことを、その時押し切っていったのだよ」こういってから姉の鈴江は、また縫い物の針を運ばせて、顔をそっとうつむけた。前髪にかぎられて燭台の灯が、眉まで影をつけている。

「反対のこととおっしゃいますと?」案外らしく小次郎が訊いた。切れ長の眼がパッとひらいて、一瞬間つぶらになったのは、驚いた証拠ということができよう。