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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

と、鈴江は顔を上げたが、

「まだまだ当分は園子様を、江戸へお呼び寄せなさいますなと、つまりこのようにいったのだよ」――で、またうつむいて縫って行った。

「それはまた何ゆえでございますか?」小次郎の声は急込んでいる。

「園子様があまりにもよいお方だからだよ」

「そのようによいお方でございますから、お呼び寄せなさればよろしいのに」

「園子様があまりにも清浄だからだよ」

「それではいよいよ園子様を、お呼び寄せなさればよろしいのに」

「園子様があまりにもお弱いからだよ」

「ではますますお呼び寄せになって、お助けなさればよろしいのに」するとにわかにすわり直すように、鈴江は厳然たる態度をとったが、

「小次郎!」と鋭く声をかけた。

「そういう園子様のよいご性質が江戸へおいでになることによって、悪くなられると思われるからだよ」

「私にはハッキリとわかりかねますが」

「というのは今の私たちのくらしが、秘密が多くて陰惨で、そうして殺伐で危険だからだよ」

「お言葉の通りでございますよ」小次郎は膝を乗り出すようにしたが、「私どもの只今のくらし方は秘密が多くて陰惨で、そうして殺伐で危険でござります。