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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「…………」

「体を大切にしておくれよ。心をのびのびと持っておくれよ」

「…………」

「私たちの使命が片づいたら、さっそく江戸を引き払って、お前さんのすきな京都へ帰って、長閑なくらしをすることにしましょう」

「…………」

「京都! ああ、いい所だわねえ。――平和にまどろんでいる東山、鷹揚に流れている鴨の川、寂びた由縁のあるたくさんの寺々、秋に美しい嵯峨の草の野、春に美しい白河の郷、人の心も落ちついていて、険しい所などどこにもない。……妾だって京都は大好きなのだよ。ね、帰って行きましょう。そうしておちついた邸に住んで、お前さんは好きなご書物を読んで、みやびやかな公卿方のお邸へ参ってご講義などをなさるがよいよ。……私たち三人をずっと昔から、可愛がってくだされた正親町様の、清らかで質素なお邸などへね。……でも小次郎や、京都へ帰るには、帰って行けるだけの功をして帰って行かなければならないのだよ。でなかろうものなら笑われるのだからねえ。そうして申し訳がないのだからねえ」

「…………」

「だから妾はお前さんへいうのよ。辛抱をおしとね。今のくらしに辛抱をおしとね。じっとしていればよいのだからね。