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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

兵馬の眼

で、小次郎は腰の大小を束に両手で握りしめると、佐久間町の通りを両国のほうへ、疾風のように走り出したが、このころ覆面をした忍び姿の、二人のりっぱな侍が、佐久間町二丁目の方角をめざして話しながらしとしとと歩いて来た。

兵馬の眼

両国橋を日本橋のほうへ渡って、さらに神田川を下谷のほうへ渡れば、平左衛門町の通りとなって、それを西のほうへたどって行けば、自然と佐久間町の通りへ出る。

月の光を故意と避けて、大小の鐺ばかりを薄白くぼかして、北条美作と桃ノ井兵馬とが、今悠々と歩いて行く。

と、美作は振り返ったが、「まだ火の手は上がらないと見える」

すると兵馬も振り返って見たが、「まもなく上がるでござりましょう」

――で、二人は歩いて行く。道の片側の家々は、窓も雨戸も閉ざしていた。家の影が往来に落ちていて、そこだけは黒々と闇であったが、闇からはずれた往来の上には、月の光が敷き充ちていて、霜でも置いたように白々と見えた。

美作と兵馬とは闇を縫って進む。人目を恐れているかららしい。

「松吉から知らせのあった時には、俺もちょっと不安に思ったが、行って見てすっかり安心したよ」