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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
さてはそういう文書なのかな。……ではいよいよ君江をせめて、秘密の文書を手に入れなければならない! もう一息だ! もう一息だ! もう一息君江をさいなんだならば、君江のほうから苦しくなって、進んで持ち出して来るだろう。……巻き奉書の中身には、人の数が示してあるという。なんのことだかわからない。血によって記されてあるという。しかも血汐で! しかも無数に! なんのことだかわからない。……が、どっちみちこの巻き奉書も、どうでも手中に入れなければならない。……お粂がすって奪ったという。今でもお粂が持っているかしら? それとも例の老人の手へ、すでに渡してしまったかしら? ……水戸様石置き場の空屋敷へ、お粂は今夜も行っているはずだ。松吉がうまく捕えてくれればよいが」
考えながら桃ノ井兵馬は、北条美作と肩を並べて、先へと足を運んで行く。
人の往来が稀で、ここの通りは静かである。依然として左側に流れている神田川の水の面には、月の光が降りそそがれているし、右側に並んで軒を揃えている町家の門口は月の光にそむいて、暗く寂しく静もっている。川と家並みとにはさまれて、長くのびている往来の面には、月の光が蒼白く注がれ、そこへ家の影が筋を引いて、明るさと暗さとのハッキリした縞をこれも依然としてつけていた。