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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
――というのがわけでありましたはずで」
こういってはお粂はもう一度笑ったが、急に真面目な表情を作って、教えるかのようにいい継いだ。
「同志のはずでございますよ。はいはいあなた様とこの妾とは。……同じ一つの目的へ向かって、進んでいる同志でございますよ」
で、紋也の返辞を待った。と、紋也はうなずいて見せたが、すぐに次のように意外のことをいった。
「同じ一つの目的に向かって、進んで行く同志ではありましょう。――しかしお互いにたのうだお方は、別々のはずでございますよ」――で、盃へ酒をついだが、今度はすぐに飲もうとはせずに、盃中の酒に映っている燈火の影を凝視した。
「たのうだお方?」と紋也の言葉を、お粂は口へ出してなぞるようにしたが、やがて意味がわかったものと見える。雌蕊のようにも白い頸を、抜けるほど前へ伸ばすようにしたが、
「ええええ、さようでございますとも。妾のほうのたのうだお方は、徳大寺様でござります」
「私のほうのたのうだお方は、正親町様にござりますか」こういって紋也は意味ありそうに、お粂の近々と迫っている情熱的の美しい顔へ、鋭く視線をぶっつけた。「目的が同じでありましょうとも、たとえ同志でありましょうとも、たのうだお方が別であってみれば、やはり我々二人の者は、やはり別々に別れ別れに、働くのが本当でござりますよ」