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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
屋根の上から
で、そっちへひた走った。と、またまた十字路へ出た。そうしてその結果は同じであった。三方だけに敵の群れがいて、一方だけにいなかった。当然二人は敵のいない露路へ走り込まざるを得ないだろう。牽制されて、牽制されて、最後に逃げ込んだ露路というのが、今、二人のいる露路なのであった。あらかじめこの露路へ追い詰めて、打っ取ろうと企らんでいたのかもしれない。この露路ばかりが他の露路と違って、群衆の姿がないのであるから、誰にも邪魔されないで、捕るにも斬るにも格好の露路だ! 紋也とお粂とはどうするであろうか?
屋根の上から
「ともかく急いで歩きましょう」背後に従っているお粂のほうへ、こう紋也は声をかけたが、露路を一方へ歩き出した。
――何らか奸策が行なわれているらしい。彼らのいないという理由はない。突然どこからか現われて来て、我ら二人を襲うのであろう。だから動くのは危険なのではあるが、動かないことには救われない。この熱さ! この息苦しさ! 火の粉! 煙り! 焼け落ちる火柱! ……火元の笹家には近いらしい。いまにも焔がまわって来よう。いやもう四方へまわっているかもしれない。