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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

子供を背負った女であった。

※(歌記号、1-3-28)あの山越えて行く時は……

無心といえば無心であり、憐れといえば憐れであり、愚かしいといえば愚かしいともいえる、しみ入るような子守唄は、その女がうたっているらしかった。女の歩いて行くあたりから嘉門に届いて来たのであるから。

「ああそうだったあの女子だった」と転ばないように両足を踏ん張り、両膝へ両手をいかめしく突き、突いた手の甲と差し出した顔の、頤ばかりを薄白く月の光に照らさせ、見送っていた嘉門はこうつぶやいたが、「君江様とこういったっけ。なんでもご亭主は竹之助様だった。その君江様とお話をして、その竹之助様へ手渡すようにと、この巻き奉書と綴じ紙とを、無理往生に預けられたのだっけ。……と、ここまでは思い出したが、さあその後がわからなくなったぞ……ええと竹之助様! 竹之助様! ……ええ竹之助様! 竹之助様! ……と、こう繰り返していったところで、おいよと竹之助様が返辞をして、立ち現われるものでもなし。さりとてまるッきり宛がないのに日本の国中を探しもならず。……これは困ったことになったぞ」

酔いはなかなか醒めないばかりか、かえって深まさって行くとみえて、巻き奉書と綴じ紙を、ねじ込んだがために膨れ上がっている、懐中のあたりをブルブルブルと、蒟蒻のように顫わせている