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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

棄てられた二品

もはや君江を追って行こうともせずに門へ背中をあてたままで抱き膝をしてかがみ込んだ。

「それにしても君江さまはどうしたものか?」

そう思った嘉門を笑うかのように、横町らしいところから……里の土産に何もろた……

子守唄の声が聞こえて来た。

「不意に消えたと思ったのにそれでは横町へまがったのか」いよいよ嘉門は鼻白んだらしい、自分を嘲笑けるようにつぶやいたが、「どうでも返さなければいけないのだがナア……といって追っかけるには疲れすぎた……厄介なのは巻き奉書さ……迷惑なのは綴じ紙さ……眠い……と」しかし嘉門はいった、「眠い――とはいえ返さなければならない」

「鉦に太鼓に……笙の笛」君江の唄う子守唄がまた遠々しく聞こえて来たが、まもなく消え、聞こえなくなった、遠くへ行ってしまったからであろう。でこの境地はひっそりとなって神田川の水音と水鳥でもあろうその川の中で羽搏く音が眠い嘉門の眼を誘うてさらさらと聞こえ、はたはたと響いた、大門の鋲が光っていてその下に膝を抱いてうずくまって、顔を膝頭におしあてて眠りにはいっている、嘉門の全身も明るすぎるほどに明るんで見えた。なんのさえぎるものもなく月が差し込んでいるからであった。