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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
金兵衛さがす
潜り門の内外でお粂を相手に押し問答をしていた間中、夢中になっていた金兵衛は、一度も振り返って嘉門のほうを、眺めたことがなかったのであるから。だからその間に一散に走って、身を隠そうと思ったら、身を隠すことができたはずである。で、おそらく泉嘉門は、そうやって身を隠したのであろう。が、しかし金兵衛には、こう思われざるを得なかった。
「お粂の姐ごと話していた時間はほんのわずかな間であった。その上に爺は酔っていた。で、走って逃げて行ったところで、そう遠くへは行っていまい! よし、追っかけて捉えてやろう!」
で、金兵衛は走り出した。薄傷を無数に受けていて、全身が綿のように疲労れていて、自分だけでは爺の手から、例の巻き奉書と綴じ紙とを、奪い取ることはむずかしいと、このように思ったところから屋敷の人やお粂を呼んで、助けを乞うた金兵衛なのであったが、どうしたものか屋敷の中からは誰一人として現われては来ず、お粂までが放心をしたような声であらぬ事をいったそのあげくに、屋内へはいってしまったので、どうしても自分一人だけで、重大な二品を取り返さなければならない――という立場に立ったので、奇蹟的の勇気が金兵衛に出た。