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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「それがよすぎるとおっしゃるので?」

「はいはいさようでございます」――ひどい自信家があったものだ! 金兵衛には笑いもできなかった。

「では」と金兵衛はからかうように訊いた。

「よすぎる中身の一座をひきいてお前さんにはあの時以来――京でお逢いしたあの時以来、東海道を順々に打って、鮫洲まで来たのでござんすかね」

「へーい、さようでございますよ」鴫丸はまたも得意そうなようすを、間延びした声に籠らせたが、「あの時は大津で打っていました。お妻太夫さんが目付かりましたので私は大変に喜びまして、さっそく戻っていただきまして、翌日に大津を立ちました。大津はよい所でございます。瀬多の蜆が名物で……」

――おや! と金兵衛は毒気を抜かれた。「話が瀬多蜆へ移って行ったぞ! とはいえ俺も瀬多蜆は好きだ」

「さようさよう瀬多の蜆は、結構な名物でございますとも」

「草津でも打ちましてございますが、あそこの名物と申しますれば……」

「はいはい姥ヶ餅でござんすとも」――俺だって食い物には、少しは通だ! 負けているものかという心持ちで、先まわりをして金兵衛がいった。

「姥ヶ餅が名物でございますとも」