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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

こう説いている老人の声が、神々しく部屋から聞こえて来た。

日本に君臨したもう皇室の淵源に遡って説いているのであって、大義名分を正すにはここから説き出さなければならないのであった。が何者が説いているのであろう? どこの部屋で説いているのであろう?

ある時には遠いはるかの部屋で、説いているようにも聞こえて来るし、ある時にはほんの手近の所で――隣りの部屋というような、そのようなほんの手近の部屋で、説いているようにも聞こえて来る。

神々しい声には相違なかったが単なる神々しい声ではなくて、その底にすさまじい覇気を持ち、熱を持ち闘争性を持ち、革命心を持った、溌溂とした声であった。

あの広い深い大洋をめざして、大渓谷を流れて行く、一筋の谷川があったとしたならば、岩に激して響きを上げ、淵にたたえて沈潜し、滝と落下して音を立て、他の細流を収容しては、睦まじそうなささやきを交わし、しかも谷川の谷川らしい清浄を保って流れて行くであろう! ――そういう谷川の流れの音を、連想させるに足るような、それは神々しい声でもあった。

誰に向かって説いているのであろう? 説いている人の姿が見えない。