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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
接吻
「誰かどこかで講義をしている。誰かどこかで泣いている。……ここはどこだ? 俺はどうしたのだ?」
部屋の一所に燭台があって、燈火が部屋を明るめていた。その燈火に淡く照らされながら、床の上に寝ている武士があり、その枕もとにすわっている若い美しい娘があった。山県紋也とお粂とであった。
「頭が痛む。……体が痛む。……訳がわからない。……どうしたのだろう?」半分意識を恢復した中で山県紋也はこう思った。
講義の声が聞こえて来た。
接吻
「故に大君に背くものあれば、親兄弟たりといえども、すなわちこれを誅して君に帰すること、我国の大義なり。いわんや官禄いただく人々は世にいう三代相伝の主人などという類にあらず。神代より先祖代々の臣下にして、父母兄弟に至るまで、大恩を蒙むるなれば、その身はもちろん、紙一枚、糸一筋、みな大君のたまものなり。あやまりて我身のものと思い給うべからず。わけてお側近く奉公したまう人々は、天照大神の冥加にかない、先祖神霊の御恵みに預かりたまう身なれば、いよいよ敬いかしずき奉る心、しばらくも忘れたもうべからず」
ここで老人の声が絶えて、四辺が森然と静かになった。