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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

などという文字が書かれてあって、十二宮殿の人相画や、天地人三才の手相画が、うまくない筆勢で描かれてもいた。それさえひどく墨色が褪せて白がよごれて鼠色をなした掛け布の面ににじんでいた。が、そういう店を控えて、牀几に腰をかけている老売卜者の、姿や顔というものは、いっそうによごれて褪せていた。黒の木綿の紋付きの羽織、同じく黒の木綿の衣裳、茶縞の小倉のよれよれの小袴。でも大小は帯びていた。といって名ばかりの大小で、柄糸はゆるくほぐれているし、鞘の塗りなどもはげていた。老年になって知行に離れた、みじめな浪人の身の上だとは、一見してわかる姿であった。

地の薄くなった胡麻塩の髪を、小さい髷に取り上げている。顔は小さくて萎びていて、そうして黄味を帯びていた。古びた柑橘を想わせる。にもかかわらず顔の道具は、いかめしいまでに調っていた。高くて順直でのびやかな鼻には、素性のよさが物語られているし、禿げ上がった広い額には、叡智的のところさえある。が、大きくて厚手の口には、頑固らしいところがうかがわれる。心の窓だといわれている眼こそは、何より特色的であった。何物をか怒り何物をか呪い、何物をか嘲笑しているぞ――といっているような眼つきなのである。