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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
――こう思ったお粂が我慢できなくなって、門外へ行ってようすを見ようと今そっと立って歩き出したのであった。
襖があいて半分閉じた、そのあわさり目からほの白い形が、紋也の寝姿に向けられた。
部屋の外の廊下へは出たものの、紋也のことが心にかかって、のぞいているお粂の顔であった。
が、その顔が引っ込んで、襖が全く合わさって、廊下を小走って行くらしいお粂の足音がしばらくの間聞こえやがて聞こえなくなった時には、この部屋には仰臥したままの山県紋也一人となった。
と、神々しい老人の講義の声がまた聞こえて来た。
「わけても君のご寵愛に預かる人は、幸いに天地万民のために君を正しき道にいざない奉り、ご前に進みては、道ある人を進め、善をのべ、邪まなる人はもちろん話をも防ぎ、ただ善き道に導き奉り、共に天神地祇の冥助を、永く蒙り給わんことを願い給うべし。しからば若き人のあまりに行き過ぎたるは、憎ましきものなれば、言葉を慎み、時を計り給うべし……」ここで講義の声が切れたが、すぐにあたかも叱咤するような、同じ老人の声が聞こえて来た。
「山県大弐、藤井右門、この人々の行ないこそは、あまりに行き過ぎたる行ないでござって、芽生えんとした尊王抑覇の大切の若芽を苅り取りたるものでござる!」