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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

こういって体をいざらせて来たのは、両方の眉毛のない老女であったが、少しく燭台へ接近したため、禿げている眉の痕がテラテラと光って、癩患の人間を連想させた。と、その老女が綴じ紙をめくった。と、すぐに声々がいった。

「これは珍しゅうございますな」「大河があります。岩があります?」「信濃あたりの地図でもあろうか?」「ここには十文字の符牒がない」

いかさまめくられた紙の面には、山岳と森林と大きな河と、突兀峨々としてつらなっている岩とによって形作られている所の広汎の地図が描かれてあった。一人の老女がいったように、朱色で記された十文字の、例の符牒は付いていなかった。

が、その代わりに大河の流れに、これはなんという美しい色だ! 燃え立つばかりの深紅の色で、牡丹の花が描かれてあった。

この謎めいた牡丹の花には、醜い四人の老女たちも、特に好奇心をそそられたと見えて、無言で一所へ視線を集めた。

で、しばらく静かであった。しかしその時隣りの部屋から、

「枕をおかいなさりませ! おいやならば……そう、おいやならば……」と、そういう艶めかしい女の声が、そそのかすように聞こえて来たので、老女たちはニッと笑い合った。