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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

こう一人の武士がいったのである。

「なぜ我々に見させようとするのか? なぜ我々に聞かせようとするのか」

桟は黒く塗られていた。黒い二筋の縦の縞の中に、橙黄色の一筋の縞が、光をなして引かれていた。隣りの部屋の燈火の光が、桟の隙間からさしているのであろう。と一瞬間橙黄色の縞が、真紅の色にカッと燃えた。緋の縮緬でも横切ったのであろう。

「なぜだろう俺にはわからない」眉毛の濃い武士が肘枕をしたまま、こういって軽くその眼を閉じた。

「獣の匂いがしたのだからなあ」

「俺には古沼の匂いがしたよ。そうして大森林の匂いがしたよ」病的に怪しい赤味を頬に持っている武士がいった。「そうしてその匂いをかいだ時に、遠い太古の歌のようなものが聞こえた。あのお方の肌が歌ったのでもあろうよ?」――それから組んでいた胡坐をとくと、二本の足を畳の上へ這わせた。と、燭台の燈火がすぐに照らして、くるぶしのあたりからうねっている静脈を黒く浮き立たせた。

「俺は外来の男を羨む」つぶやくようにいったものがあった。富士型の秀でた額を持った、横様に寝ていた武士であったが、こういうとグルリと寝返りを打った。