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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
しかし鈴江には躊躇された。
「小気味の悪い行列だったよ。その行列がはいり込んだのだよ。小気味の悪い事件などが、あの家の中で起こっているかもしれない。忍び込むのは妾にはいやだ」
後へ引っ返して彷徨った。で、月光が正面を照らして、今はかえって細めている愁を持った眼のあたりを、睫毛の見えるまでに明るめた。「でも」と鈴江はさらに思った。「そういう小気味の悪い行列が、事実あの家へ小次郎を連れて、はいり込んだのだとあってみればそれこそ打ち捨てておかれない」で、鈴江は引っ返した。
「探すあてのない小次郎なのだよ。少しでも小次郎に似通っている、そういう武士が手近の家に連れ込まれているとあるからには、何を差しおいても探さなければならない」ここに鈴江の考えがのびた。
「とはいえあの時の若衆武士は、死骸そっくりのようすをしていたよ。あれが小次郎であったならば? 小次郎の死骸であったならば?」
ふとこの一事に思いが到って、鈴江は肌に粟を生じた。
持っていた小次郎の片袖と美作の印籠とを夢中のように懐中へ押し入れると褄を取り上げ、建物の一面に添いながら、鈴江は表門のほうへ走り出した。