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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
紋也が呻いたのは当然といえよう。
さてその七人をはじめとして、正面の儒者ふうの老武士も、二十人余の武士たちも、そうやっていっせいに紋也のほうを向いたが、これはなんということであろう! 叫びの声も立てなければ、咎め立てする声も立てず、ましてや立ち上がって来る者もなく、寂然と眺めているばかりであった。で、紋也も立ったままでいた。その紋也はどうかというに、髪は乱れて顔へかかり顔は血の気を失って、葱の茎のように蒼白く、体中を白布で捲き立てていて、しかも刀を杖ついていた。真っ向から部屋の中の大燭台の明るい燈火を浴びたがために、落ちくぼんだ眼窩の底のほうで、ギラギラと輝いている血走った眼の、その血走りがいよいよよく見え、意外の光景に接したがために、アングリとあけた口の中の、舌の色さえ見えるほどであって、そのためにいよいよ紋也の姿は、すさまじく恐ろしく物騒に見えた。で、どのように沈着た人でも、この紋也の姿を眼に入れたならば、動揺しないではいられないであろう。にもかかわらず部屋の中にいる、二十人余の人たちは、動じようとはしないのであった。
このことが今度は紋也の心へ、いわれぬ不思議を産み出したようであった。