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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
「それが聞きたい、申してみやれ?」
「はい、禁裡様にござります」
「…………」
りっぱな公卿はその言葉を聞くと、襟を正して粛然としたが、
「改めてそちに訊くことがある。『くもるとも、なにか怨みん、月今宵、晴れを待つべき、身にしあらねば』――この和歌の意味を存じておるかな?」
「存じておりますでござります」
「和歌の詠者も存じておるか?」
「存じておりますでござります」
「どのような場合に詠ったものか、その点もそちは存じておるかな?」
「存じておりますでござります」
「では改めてもう一度訊くが、そちとこの和歌の詠者とは、有縁のものと思われるが、それに間違いはあるまいな」
「有縁のものにござります」
「さようか」といったがりっぱな公卿は、顔をゆすってうなずいてみせた。「所司代の番士の長屋の土塀へ、楽書きをした心持ちも、これでおおよそわかって来た。反抗的に書いたのであろう?」
「御意の通りにござります」
「うむ」というとりっぱな公卿は、また顔をゆすってうなずいてみせたが、「そち、この麿を存じているかな?」
「徳大寺様と存じまする」
「いかにも」と徳大寺大納言家は、それを聞くとまたもやうなずいてみせたが、「麿とその歌の詠者とは、昔多少の縁があった。