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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「園子様とお逢いなされるのが、お苦しいからでございましょうよ」

紋也は返辞をしなかった。ただ、黙々と歩いて行った。飯田の城下も通り過ぎ、日数を重ねて浜松へ出た。この浜松から東海道となる。東海道を京に向かって、二人の兄妹は歩いてゆく、編がさで二人ながら顔を隠し、人目につかぬように歩いてゆく。旅人や、旅かごや、乗りかけ馬などが、街道筋を通っていた。武士も通れば商人も通り、道中師らしい人物も通り、女連れの群れなども往来していた。

松並木は青く海も青く、海にはかもめが白々と飛び、並木の土手には草の花が、松の根を美しく飾っていた。

で、賑やかで長閑そうであった。

しかるにいっこう長閑そうになく、憂うつらしいようすをした、浪人者らしい二人の武士が、京都のほうへ歩いていた。

深編がさをいただいているので顔を見ることはできなかったが、一人は桃ノ井兵馬であり、もう一人は矢柄源兵衛なのであった。

「どうやらとうとう見失ったらしい。矢柄氏なんと思われるかな?」

「さようさ」と矢柄源兵衛はいった。

「見失ったようでございますな。……一人は男一人は女、その取り合わせが面白うござる、根よく探したら見つかりましょうよ」