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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

「そのほうがよろしゅうございますとも。江戸までは長旅にございます。今から足など痛めましては、それこそ大変でございます。旅宿を取ることにいたしましょう」――乳母のお咲はこういうようにいった。

「私のことなら大丈夫だよ。私はちっとも疲れてはいない。一日でも早くお江戸へゆきたい。ね、もう一宿ゆくことにしようよ。……でもお前たち小平やお咲が、疲れているようなら泊まってもよいが」――娘はかさの中でこういうようにいった。

徳大寺卿のくげ侍の、青地清左衛門の妹であり、山県紋也の許婚である、それは青地園子であった。どうして旅などしているのであろう? 許婚の紋也を恋慕って、江戸表を差して行く途中なのであった。

「山県様に一日も早く、お逢いなさろうと思し召して、先をお急ぎなさいますそうな」下僕の小平はからかうようにいった。「がお嬢様それはいけませぬ。逢わない内の楽しみにも、よいところがあるものでござりますよ」

「まあ小平は……何をいうことやら」

しかし三人は泊まることにして、千代古屋という旅宿屋へはいって行った。

「お早いお着きでございます」

――で、三人は奥へ通された。

しだいに夜が迫って来て、続々と旅人は旅宿の門をくぐった。