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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

なかったのか! 尾羽打ち枯らした浪人の己だ! 今後の立身などおぼつかない! 切り死にすればよかったではないか!

走りながら兵馬はこんなことを思った。

――仇敵の山県紋也に討たれて死ぬのが口惜しく思ったからだろう。それで夢中で逃げたのだろう! 追って来おる! 追って来おる! 追って来おる! 食い逃げ、賊だと叫んでおる! ……町人どもに追い詰められて捕えられては恥の恥だ! ……腹を切りたい! 死に場所を得たい!

兵馬は走りながらこう思った。で、兵馬は横道へそれた。しかし群集は追って来た。兵馬は露路露路をくぐって逃げた。しかし群集は追って来た。と、兵馬は駅路のはずれの、神社の広い境内へ出た。そこにかけ小屋が立っていて、赤い提灯が釣るされてあり、人々が木戸から出入りしていた。

「よし」と兵馬は咄嗟に思った。

「まぎれて小屋へはいってやろう」――抜き身を鞘に納めるや、素早く木戸から中へはいった。

お妻太夫の見世物小屋であって、その舞台裏の楽屋の中に、一人の女が子供を膝にし、さも平和そうにうたっていた。

「あの山越えてゆく時は……」

「竹太郎やお笑い、よい子の竹太郎や! お父様を目付けにゆきましょうねえ」