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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
女煙術師を見送ったが、口の中でつぶやいた。
「油断をしているとこんな目に逢う。一刀流では皆伝の技倆、起倒流では免許の技倆、などと自慢をしていながら、真正面から女の子のためにポンとばかりにぶつかられて、かわすことさえできなかったんだからなあ。油断をしているとこんな目に逢う」
どうやら苦く笑ったらしい、顔の一所へ白々と、一列の歯が現われた。
「そうはいってももっともともいえるさ」また口の中でつぶやいた。「こんな深夜にこんな所で、見物もないのに煙術を使って、迂濶にはいえないあのような和歌を、あんなにも大っぴらに喋舌っていたのだからなあ。見とれていたのは当然だよ。……いったいどういう女なのだろう!」
左側は十五万石榊原式部大輔、そのお方のお屋敷で、海鼠壁が長く延びている。その海鼠壁をぬきんでて、お庭の植え込みが繁ってい、右側は普門院常照寺で、白壁が長く延びている。それの間にはさまれている道を、松平備後守のお屋敷のほうへ、女煙術師は小走っていた。白くひらめくものがある。月夜を海にたとえたならば、その中で魚がひらめくように、女煙術師の足の踵が、チロチロと白くひらめくのであった。