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むすめえんじゅつし
娘煙術師
国枝 史郎
「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页
地上へ細っこい影を曳いて、だんだんこちらへ近寄って来る。足もと定まらず歩いて来る。どうやら酒にでも酔っているらしい。痩せてはいるが身長は高く、肩が怒って凛々しいのは、武道に深い嗜みを持っている証拠ということができる。
と、月を振り仰いだ。まさしくりっぱな顔であった。が、気味の悪い顔ともいえる。はね上がった眉、切れ長の眼、高くて細い長い鼻、いつも苦い物をふくんでいるぞと、そういっているような食いしばった口、顳は低く頬骨は高く、頤はずっこけてはいたけれど、頤の骨は張っていた。年はおよそ二十三、四で、五までは行っていないらしい。
そういう浪人がヒョロヒョロと、足もと定まらず歩いて来た。
こうして榊原式部大輔のお屋敷の外側を通り抜けて、松平備後守のお屋敷の外壁の近くまでやって来た時に、一つの事件が湧き起こった。そこは丁字形をなしていたが、右手の道から遊び人ふうの男が、これも酒にでも酔っているのであろう、千鳥足をして現われて来たがドーンと浪人にぶつかった。
が、その時には浪人者は、酔ってはいても正気であるぞと、そういったような塩梅に、スルリと体を右へそらして、そのぶつかりを流してしまった。