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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

何も恐れるにおよばない。俺は決して役人ではないよ」ここで口調を優しくしたが、「見受けるところ、浪人らしいの」

「は、さようにございます」浪人の本当の心としては「そち」と下目に呼ばれたり、「何も恐れるにおよばない」などと、威嚇的に物をいわれたこと不快でもあれば業腹でもあったが、例の理由のない圧迫に押されて、そういう本心を出すことができず、つい和しく慇懃にそんなように口から出したのであった。

と、武士は肩でうなずいてみせたが、

「俺の屋敷へ遊びに参れ」不意にこんなことをいい出した。

浪人は意外に感じたのであろう、ぼんやりとして黙っている。

「俺はな、久しく探していたのだよ」そういう浪人のようすなどには、かかわりがないというように武士は後をいいつづけた。「お前のような人間をな。浪人でそうして腕が立って、人を殺した経験のある。……俺にはわかるよ、殺したことがあろう?」

今度は浪人は怯かされたらしい、思わず二、三歩後へ下がった。

「で、姓名はなんというな?」

――いったいこれはどうなるんだ? これが浪人の心持ちであった。追っかけ追っかけ訊かれることが、いちいち浪人には恐怖だからである。