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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

おびただしいまでに庭木があって、いずれも年を経た常磐木と見えて、土塀の甍から高くぬきんでて、林のように繁っていた。幾棟か建物もあることであろうが、しかし庭木におおわれて、その一棟さえ見えなかった。大門の瓦屋根にさえぎられて、門の扉が裾のあたりで、月の光からのがれていたが、その薄暗い門の扉の上にいかめしい大鋲が打ってあるのが、少しく異様に見てとられた。用心堅固に守っているぞと、威嚇しているように感ぜられる。

いやいや用心堅固といえば、庭木の形にも見られるのであった。すなわち内側から土塀の方へ、鉄よりも堅く思われるような老木をビッシリ植え込んで、枝や葉を網のように参差させて防禦の態を造っているからである。何者か屋敷内へ入り込もうとして、たとえ土塀を乗り越したところで庭木の塀にさえぎられて、目的をとげることはできないであろう。屋敷の大きさは一町四方もあろうか、周囲の家々から独立をして、ひとりそびえているのである、あえてこの辺は屋敷町ではなくてむしろ町家町というべきであった。もっともはるか東北の方には藤堂和泉守や酒井左衛門尉や佐竹左京太夫や宗対馬守の、それこそ雄大な屋敷屋敷が、長屋町家を圧迫して月夜の蒼白い空を摩して、そそり立ってはいたけれど……。