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むすめえんじゅつし

娘煙術師

国枝 史郎

「朝日新聞」1928(昭和3)年8月26日~1929(昭和4)年2月22日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 267,766 字 · 530 页

青空文庫

たのだからな。……自分の屋敷か懇意な人の屋敷さ」眼の前に立っている屋敷の中へ、女煙術師がはいった時の、――そのはいり方の無造作だったことを、あらためて回想することによって武士の疑惑は深まったらしい。

「女煙術師も曲者らしいが、この屋敷も怪しく思われる」

で、しばらくは見まわしていた。屋敷内は寝静まっているらしい。人声もしなければ足音もしない。繁っている庭木の一所で、ねぐらをつくっていた雀でもあろうか、ひとしきり羽音が聞こえたが、それとてもすぐ止んでしまって、まったく物音が聞こえなくなった。

「いつまで眺めていたところで、別に得をすることもあるまい。思い切りよく帰るとしよう」

――で若い武士は立ち去ろうとしたが、立ち去ることはできなかった。

「印籠に未練がございますなら、お返しすることにいたしましょう」

潜り門の内側からの女の声が、悪戯ッ児らしい語調をもって、揶揄するように呼んだからである。

「ほう」という若い武士は、ちょっと度胆を抜かれたように、潜り門の前まで寄って行ったが、

「それではやはり拙者の印籠を、あなたにはおすりなされたので?」どうという訳ともなかったが、こんなような丁寧な言葉使いで若い武士は訊き返した。