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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
先夜のとき笑ってみのがしたのも、寒笑の小胆者になにができるかという気持と、むしろ可笑しさが先に立ったからである。いま眼の前に膝を固くして、大きなからだをぶるぶる震わせているさまを見ると、その胆の小さいことも臆病なことも絵に描いたようで、どなりつけるのも可哀そうな感じさえした。……寒笑はひとたまりもなく白状した。
「滝川内膳さまにおたのまれ申しました」
「この旗のことを内膳が知っている筈はない、きさまこのあいだ聞いていて饒舌ったのだろう」
「いいえ決して、決してわたしは申しません、ほかから出た話なんです、まったくです」
「ほかから出たとは」
「水戸さまの内からです」
通助は寒笑をねめつけた。
「誰だ、水戸家のなに者だ」
「よ、よくは存じません、たた滝川さまがそう仰しゃるのを伺っただけなんで、なんでも結城とか寅寿さまとか云っておいでのようでした、嘘は申しません、まったくです」
「結城寅寿……かれが知っていたというのか」
「その他にも色いろなことを知っていらっしゃるようすでした」
「ほかにとはどんなことだ」
「此処の若旦那が木曽から大阪へいらしったこともご存じのようすで、なんでもあとから探索をつけてやったとか、云っておいででした」