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しんちょうき
新潮記
山本 周五郎
「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页
高原の風
一
桑畑や茅原を吹きわたってくる風は、山気をふくんで秋かと思うほど冷やかだった。空気は乾いて澄み徹っているので、ずいぶん遠い山々のひだがあざやかに見えるし、防風林にかこまれた農家のひっそりとした聚落や遠く近く点々と茂っている落葉松林のたたずまいなど見るものすべてがどこかに秋のふぜいをもっていた。
「日本人のなかでは宗教が正しい発達をしない、……というのは、現実にどういう点をさすのかね」
肥っている大助は風の涼しさにも拘らず、笠の下で額の汗を拭きながらこう反問した。もうだいぶ草臥れているらしい、然し秀之進のほうは、例に依っておちついた、静かな歩調でゆっくりと歩いている。
「一例を挙げれば禅話だ、これはおれの私観としていうのだが」
ちょっと苦笑するような表情をみせながら、秀之進はつづけた、「大さんは弘安の役における北条時宗と祖元との話を知っているだろう」
「宋僧の祖元かね」
「弘安四年に元軍が来寇したとき時宗は祖元をたずねて『大事到来せり如何すべき』と問うた、すると祖元が『煩悩すべからず』と答えた、時宗が言下に大喝した、祖元はにっこと笑って、『獅子児よく吼えたり』