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しんちょうき

新潮記

山本 周五郎

「北海道新聞」1943(昭和18)年6月12日~12月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 155,541 字 · 305 页

青空文庫

そして沖人足や店付きの者が、酒に酔って着荷祝いの唄をはじめると、かれは、そっとぬけだして塩屋町の店へ帰った。

店はもう提灯を消し、大戸をおろして、ひっそりと寝しずまっていた。大助は母屋から離れた別棟の一戸に住んでいる。それは広い地内の庭はずれにあり、二階建てで土蔵造りの書庫が付いていた。

「お疲れさまでございます」

まだ寝ずに留守をしていた老女のしほが、手燭を手にもって戸口まで迎えに出ていた。

「まだ起きていたのか、帰って寝ろと云って置いたのに」

「お夜食を召しあがると思いましてね」

「もう今夜はよそう」

「でもお支度ができておりますけれど」

「お客さんは済んだか」

「はい……」

「そんならいい、いま浜で弁当をちょっと摘んで来たから」

そう云いながらあがって風呂場へはいっていった。かれは寒中でもよく水を浴びる。秋のはじめとはいいながら、夜半の気温はもうかなり冷えるので、風呂場の水音は聞く者の耳にも寒ざむとひびいた。汗を流して上り、常着に着替えると、待っていたしほの手から手燭を取り、あとはいいからと云って、そのまま土蔵の書庫へはいっていった。書庫の二階には畳敷の八帖があって、彼の勉強部屋になっている。